力を加えずに膨らんで元に戻る三軸織物の技術を活用した人工衛星用アンテナ材料で世界シェア60%を獲得している。単純な織物構造ではあるが、これからその応用範囲は広い。
【本技術の概要】
宇宙航空研究開発機構(JAXA)が2022年度打ち上げを予定する技術実証衛星に、特殊繊維加工のサカセ・アドテック㈱などが開発した動力を使わずに太陽電池のパネルを開く「インフレータブル構造」の部材が搭載される。同社は、人工衛星用アンテナ材料では世界のシェア60%を誇る。明治時代に創業し、祖業は衣料品向けの織物生産だったが、80年代後半に米国から三軸織りの技術を導入し、現在のサカセ・アドテックを立ちあげた。
三軸織物は折り畳んでも、開いたときに折り目が残らず、支柱や織物が元の形状に戻ろうとする復元力を利用し、自動でパネルを広げる仕組みで構成されている。この構造特性により、太陽光を受ける面積も増やすことが可能で、発電能力を10倍にできるという。軽くて耐久性に優れるため、同社は、地上でもドーム施設の天幕などの多用途への応用も目指す。
【本技術の基本原理】
同社の技術は繊維を3方向に織り、編み目を竹籠のような六角形にする世界で唯一の「三軸織物」の技術をベースとしている。この織構造により竹籠のように軽く、丈夫で型崩れしない特長が得られる。宇宙用構造材料をはじめ、スポーツ用材料、建築用内装材料等幅広い分野での市場ニーズに対応する。JAXA、大学関係など多数の研究機関との共同研究を積極的に行い、炭素繊維を三軸に織って樹脂をコーティングした衛星アンテナ用の複合材料も生産している。
三軸織物とは、Triaxial Woven Fabric(以下T.W.F.®)のことで、60°の角度で交叉している2方向の経糸に緯糸が組織されており、各糸が60°の交叉角で織られている。これに対して、一般に織物と呼ばれているのは、経糸と緯糸が90°の交叉角で織られている二軸構造でBiaxial Woven Fabric(以下B.W.F.)と呼ばれている。織物の性能は変形力に対して、最大強度ではなく最少強度に支配されるため、極端に強度の低い方向をなくせば良いという発想からT.W.F.®が開発された。T.W.F.®はB.W.F.の構造上の弱点を持たない材料として、また、ユニークな特性を活かして、様々な分野において商品開発が進められている。
【本技術の特徴】
- 斜め2方向のタテ糸にヨコ糸があり、各糸が60°の交差角で織られている。
- 軽く丈夫で型崩れがしにくく、ほどけにくい。
- 折り畳んでも、開いたときに折り目が残らない。
- 織物が元の形状に戻ろうとする復元力を利用し、自動でパネルを広げる仕組みを持っている。
【本技術の応用事例・想定用途】
サカセ・アドテックは、商用衛星向けでは世界的に高いシェアを持つ。03年に打ち上げられた小惑星探査機「はやぶさ」、14年の後継機「はやぶさ2」のアンテナにも採用された。生産・販売と並行して研究開発を進め、JAXAに選ばれた動力なしで部品を動かせるシステムも独自開発した。
(1)宇宙探索機搭載用アンテナ
(2)建築/工業デザイン/高性能スポーツ用材料
三軸織物複合材料の軽くて保形性が高い特長を活かして、ドーム天井、釣竿、ゴルフクラブなど、これまでにないデザイン性や機能性を発揮できる。