有望技術紹介

49 第5のがん治療法、中性子捕捉療法(BNCT)の進展

東京工業大学 化学生命科学研究所
中性子線照射で、がん細胞を選択的に殺す中性子捕捉療法(BNCT)に用いる、格段に効果的な薬剤を発見した。この治療法によりマウスの皮下腫瘍をほぼ消失させることに成功した。

【本技術の概要】
東京工業大学 科学技術創成研究院 化学生命科学研究所の野本貴大助教と西山伸宏教授の研究グループは、がんの治療効果を大幅に向上できる薬剤を発見した。
ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)は、ホウ素(10B)に対して熱中性子を照射することにより核反応を起こし、細胞傷害性の高いアルファ粒子とリチウム反跳核を発生させて、それによりがんを治療する方法である。これらの粒子の移動距離は細胞1個の大きさ程度に相当するので、ホウ素をがん細胞だけに集めることで、他の細胞に影響を与えない。
従来からボロノフェニルアラニン(BPA)が、がんに選択的に集積する優れたホウ素化合物であることは知られていたが、がんに長期的に留まることができない難点があった。今回、ポリビニルアルコール(PVA)とBPAを結合させることで、ガンへの滞留性を向上させることができ、がんの治療効果を大幅に向上できることを確認した。

【本技術の特徴】
液体のりの主成分であるPVAは、生体適合性の高い材料として古くから研究されてきた物質であり、さまざまな医薬品の添加物としても使用されている。PVA-BPAは、水中でポリビニルアルコール(PVA)とBPAを混ぜるだけで簡単にを合成することができる。従来のBPAが細胞質に蓄積するのに対し、PVA-BPAはエンドソーム・リソソーに局在するようになり、がん細胞に取り込まれるホウ素量が約3倍に向上し、細胞内で高いホウ素濃度を長期的に維持することが可能となった。
ステラファーマ(株)で行っている、臨床試験第II相において、再発頭頸部がんに対しBNCT施行90日後の奏効率71.4%という治療効果が得られた。

【本技術の応用事例・想定用途】

臨床研究においては、BNCTの普及を目指した加速器型中性子線源が主流になっているが、現状の加速器型中性子線源による熱中性子の産生量では、浅い部位のがんに適応が限定される。治療の適応を深部まで拡げるためには、がん組織内のホウ素濃度を長期的に高く維持することが必要となっており、本研究成果が大いに貢献できるものと期待される。

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