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【049】 次世代ペロブスカイト太陽電池への期待

【049】 次世代ペロブスカイト太陽電池への期待

兼子 隆雄

1. はじめに
 自給率の低さや、化石燃料に依存したエネルギーシステムを抱える我が国では、国の経済のためにも、地球温暖化を防ぐためにも、エネルギー問題の解決が必要不可欠です。そして解決策となりえるのが「再生可能エネルギー」です。2012年のFIT制度施行以来、徐々に再生可能エネルギーを使用した太陽光や風力等の発電所が増え、電源構成における再生可能エネルギーの割合も増えてきましたが、発電電力量の8%程度と、まだまだ主力電源には程遠い状況です。2030年の20%、2050年の主力電源化に向けて、更なる再生可能エネルギーの普及が期待されています。
 2010年から、筆者は、JSTの産学連携プロジェクトで最先端の有機薄膜太陽電池の開発に参画する機会を得ました。有機薄膜太陽電池の開発が進む中で変換効率は12%程度を達成することができましたが、2013年ごろからペロブスカイト太陽電池の開発が世界中で進められ、あっという間に変換効率が23%まで伸び、世界中に大きな衝撃を与えたのです。「シリコン系太陽電池」や「化合物系CdTe太陽電池」にも匹敵する高い変換効率を達成できるペロブスカイト太陽電池は、塗布(スピンコート)技術で容易に作製できるため、既存の太陽電池よりも低価格になります。さらに、フレキシブルで軽量な太陽電池が実現でき、シリコン系太陽電池では困難なところにも設置することが可能になります。このような特徴を有する太陽電池で、シリコン系太陽電池と同程度の変換効率を有するものはこれまでにありませんでした。ペロブスカイト太陽電池の登場によって、理想的な太陽電池が実現可能になったのです。現在、ペロブスカイト太陽電池は、色素増感や有機薄膜太陽電池を差しおいて世界で最も注目されており、太陽電池に関する論文の大半がペロブスカイト太陽電池に関するものになっています。この新たな太陽電池が次世代エネルギーの主軸となるかどうか、改めて考えてみたいと思います。

2. ペロブスカイト太陽電池とは
 ペロブスカイトとは、ロシアのウラル山脈から得られた灰チタン石(CaTiO3)に名付けられた名称です。一般的に化学式がABX3(CaTiO3の場合、A:Ca, B:Ti, X:O)の組成式で表され、AとBには陽イオン、Xには陰イオンが配置されます。 太陽電池への応用研究として盛んに用いられているのは、図に示したような有機金属ハライドペロブスカイト材料です。主に、A:1価有機カチオン、B:2価金属カチオン、X:ハロゲンアニオンから結晶が構成されています。具体的には、有機物であるメチルアンモニウムイオン(MA+)、無機物である鉛イオン(Pb2+)、ハロゲンアニオンであるヨウ素イオン(I-)の配合比を調整した結果、先ほど説明したペロブスカイト結晶構造ができあがり、半導体としての性質を示します。
 2009年にこの画期的な太陽電池を最初に提案したのが桐蔭横浜大学の宮坂力特任教授(上記写真)で、世界的な注目を集めました。有機無機ハイブリッド構造のペロブスカイト結晶であるNH3CH3PbI3が、酸化チタンの可視光増感剤としてはたらくことを見出したのです。この材料を光増感体として応用した光増感型太陽電池としての初期の光エネルギーの変換効率はわずか3.2%で、シリコン系の26%とは比較できませんでした。しかしながら、その後、改良を重ね、現在では最大23%を超えており、シリコン太陽電池に匹敵しうる可能性を秘めていると考えられています。日本発の次世代太陽電池の大本命で、ノーベル賞の有力候補と目されています。

3. ペロブスカイト太陽電池の魅力
 シリコン太陽電池は非常に優秀な電池で、発電効率も高く、安定で、実用化もなされています。日本の技術レベルは世界最高と言えます。より多くの人の生活に役立つために、これから克服されるべき課題となる一つの点は、その重さです。民家の屋根に載っている太陽電池は、例えば平均的な4kWの発電システムでパネルの総重量はおよそ250kg、メーカーによっては400kg程度となることもあります。電池が重いと屋根の上に持ち上げるだけでも大変です。設置用の足場は太陽電池の重さに耐えうる強固なものでなければならず、工事に掛かる時間も長く人件費がかかります。また安定して設置できるようにしたり、屋根がつぶれないよう丈夫なつくりにする必要があったりなど、建造物の建築的な問題が生じます。つまり、設置のためのコストがかかってしまうのです。もちろん、シリコン太陽電池の作製費自体は、安価になってきています。その意味で、製造コストだけを考えると、シリコン型太陽電池で世界のエネルギーを賄える可能性はありますが、先述の設置コストや設置技術が課題として残されています。
 一方、ペロブスカイト太陽電池は、材料を塗布することで作ることができます。ペロブスカイト自体の厚さは500 nm(ナノメートル)、髪の毛の100分の1くらいです。太陽電池の重さは何の基板に塗布するかによって決まります。極端な例を出すと、ペロブスカイト太陽電池は食品を包装するラップフィルムのような軽いて曲がるものの上にも作製される可能性を持っています。そのため、設置コストに強みがあると考えられます。ネット・ゼロ・エネルギービル(ZEB)への普及につながる建物壁面への設置や、透明電極を用いて窓への適用など、多様な設置形態が可能になります。さらに、太陽電池モジュールの基板へ直接、層材料を塗布することができるため、従来の作製技術に比べて、より安価に形成できます。
 またメガソーラーで高効率に発電する場合、高照度といって昼間の晴天のように強い光が必要ですが、ペロブスカイト太陽電池なら高照度から低照度まで発電効率は良好です。つまり朝夕や曇天時の1000ルクスとか200ルクスなどの非常に弱い光では結晶シリコンよりも発電効率が高くなります。ですから、今後はいろいろなデバイス、たとえばIoTセンサーの電源などにも応用できると考えられます。ビルの外壁や内装、カーテンなどの生地、災害用のテントでも自家発電が可能になるし、飛行機やドローン、農業用ビニールハウス、宇宙衛星などさまざまな分野に展開していける可能性を秘めています。変換効率をさらに高めて、実用に耐えられる耐久性も備えられれば、屋外用や屋内用、携帯用など、広い用途の民生用産業材料が誕生するはずです。目指す到達点は、電力への変換効率25%以上、発電コスト7円/kWh以下のペロブスカイト太陽電池です。

4. 「次世代型太陽電池の開発」プロジェクト
 本年6月には、NEDOから「グリーンイノベーション基金事業/次世代型太陽電池の実用化」(2021年度~2030年度)に係る公募概要が発表されました1)。そこでは、「太陽電池の軽量性や壁面等の曲面にも設置可能な柔軟性等を兼ね備え、性能面(変換効率や耐久性等)でも既存電池に匹敵する次世代型太陽電池(ペロブスカイト)の実用化に取り組みます。世界でも太陽光の導入は急速に拡大。世界的に建物等への設置が進むものと想定され、先行的に課題に直面する日本がイノベーションにより、拡大が見込まれる次世代型太陽光市場の獲得を目指す。既存の太陽電池の分野では、日本は世界最高効率を記録するなど世界トップクラスの技術を有しながらも、量産に向けた生産体制の構築競争に遅れなどにより、国際競争力が低下。我が国の強み、過去の反省等をふまえながら、我が国としての勝ち筋となる戦略を磨き上げ、その戦略に沿って、ペロブスカイト太陽電池の開発を加速化し、他国に先んじて実用化することを目指す」とあります。
 日本はシリコン太陽電池の開発において、多結晶、薄膜技術などで世界をリードしてきましたが、その活用においては欧米勢に先行され、さらに今では中国が生産および導入においても世界の市場を席巻してしまっています。現在、ペロブスカイト太陽電池の研究開発で先端を行っている日本は、その実用化で再び太陽電池市場に復帰することが期待されます。おりしも本年9月には、フィルム型ペロブスカイト太陽電池としては、世界最大面積(703cm2)のモジュールで、世界最高のエネルギー変換効率15.1%を達成した事が発表されました2)。このフィルム型太陽電池で、多結晶シリコン太陽電池の効率に到達できたことは大きな成果だと言えます。今回開発された新たな手法により、エネルギー変換効率の向上と生産プロセスの高速化を両立することが可能となり、日本発のペロブスカイト太陽電池の実用化に向けて大きく前進したのではないかと思います。ペロブスカイト太陽電池の研究開発や事業化は世界中で活発に進んでおり、さらに産学官の英知を結集して我が国としての勝ち筋となる戦略を磨き上げ、ペロブスカイト太陽電池の開発を加速化し、他国に先んじて実用化されることが望まれます。

5. 今後への期待
 これまで人間は地球に甘え、自分たちの利益を優先させてきた結果、今の環境問題やエネルギー問題に繋がっています。日常生活では意識しにくいこういった問題を、未来に向けた研究を知ることで、その背景にある問題と間接的に向き合ってみる事も重要です。太陽光発電のみならず、風力や地熱などの自然エネルギーを活用すれば、資源の枯渇を恐れる必要もなく、温暖化対策にも大きく貢献できます。そのような大きなメリットを持つにもかかわらず、社会的には「自然エネルギーは不安定で使えない」というネガティブな印象も強くあります。自然エネルギー利用の問題は、発電力そのものよりも、蓄電ができないことであり、蓄電池については、低コスト化やさらなる技術開発も進められています。世界的に見て日本はさほど日照条件が良くないため、いくらメガソーラーを作っても発電できない日も多いのが現実です。しかし、ペロブスカイト太陽電池ならさまざまな形で発電することができます。
 科学者が自然エネルギーの発電方法を生み出すだけでは、自然エネルギーはなかなか定着しません。今後の未来社会において、自然エネルギーをどのように活用していくのか、行政や専門家のみならず、社会全体で真剣に考える時期にきていると思います。一般の家庭に普及していく際に、安価で設置しやすいということは重要です。設備や技術が整っていない途上国への普及や現地での産業化の実現も夢ではありません。日本発のペロブスカイト太陽電池が早期に実用化され、地球規模での環境・エネルギー問題の解決に貢献することを期待したいと思います。

2021年9月19日
著 者:兼子 隆雄(かねこ たかお)
出身企業:三菱ケミカル株式会社(旧三菱化学)
略歴:石油化学製品合成触媒の開発、NOx分解触媒の開発、褐炭液化技術の開発(NEDO委託事業)、高砂研究所基礎研究室長/技術部長。JST/ERATO技術参事を経て産学連携プロジェクト「有機薄膜太陽電池の開発」に参画(東京大学大学院理学系研究科特任研究員)。
専門分野:触媒、石炭液化、有機太陽電池、産学連携マネジメント

*コラムの内容は専門家個人の意見であり、IBLCとしての見解ではありません

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