佐藤 優
1.はじめに サステナブル・カーボンニュートラル・サーキュラーエコノミー・バイオやバイオテクノロジー・SDGs等々最近は多くの環境に関する言葉を耳にします。そのような言葉だけが独り歩きしているようにも感じるのは私だけではないと思います。生まれては消えて行く新しい言葉の意味を正しく理解してから使う事により、より説得力のある言葉に生まれ変わるのではないかと考えています。 SDGsを例にしてみますと、17の大きな目標があります。1.貧困をなくそう~17.パートナーシップで目標を達成しよう。その17の目標の中に169個のターゲットがあります。SDGsのポスターを掲示すれば取り組んでいますという宣伝になるのでしょうか? 169個のターゲット全てに取り組んでいるとは思えません。12.つくる責任 つかう責任にこだわり、物作りの観点から、13.気候変動に具体的な対策を。14.海の豊かさを守ろう。15.陸の豊かさを守ろう。このあたりが開発者のこだわる所ではないかと考えています。 食糧問題から貧困問題、終わらない紛争にエネルギー問題そして環境問題など人類に託された問題点は山積みです。一度に全ての対策は出来ません。私たちができる対策はなんだろう、企業にできる対策はなんだろうと、今一度立ち止まり見つめ直して考えてから再度出発する事も必要ではないかと思います。科学技術は進歩し続けていますが、地球環境の破壊は科学技術の進歩より一歩も二歩も早く進んでいるのではないでしょうか?
2.我々に課せられた課題 工場での化学薬品を扱う仕事が長かった事もありますが、環境に関しては今でも敏感に反応をします。シアン化合物を垂れ流していた企業が摘発を受けたり、災害で薬品が流れ出してしまったり、産業廃棄物を扱う企業から異臭騒ぎが発生等、なぜ大きなニュースにならないのだろうと思う事も多々あります。行政指導がどうのという事もありますが、一人一人の小さな努力の積み重ねこそが環境に大きな影響を与えるのではないでしょうか? その個人の気持ちをどのように環境に向けさせることができるのか?その一つが生まれては消えて行く冒頭のサステナブルやカーボンニュートラル、SDGsなどの環境に関する取り組みや言葉だと思います。これらが今後どのように進化したり、変化したりしていくのか?そのままこのような言葉の話題が減少し、消えていけば我々人間には興味が無いと言う見方もできると思います。そして今できる事、小さな事でも取り組んで行きたいと考えています。
3.SDGs 12から考える 工場とは何でしょうか? 【つくる責任】物作りの最先端の現場だと思います。SDGs12は世の中の全ての工場が取り組む必要があると思います。もちろん日々の生産活動や改善活動は必達事項としてほぼ全ての工場は取り組んでいるかと思います。作る責任とは何でしょうか?早く・安く・高品質という基本的なQCDは当たり前ですがこれにSDGs12の取り組みをプラスしていく必要があります。高品質が過剰品質になっていないか?データを見直してロスを低減できないか?廃棄物を再利用できないか等々、可能性は無限大にあると考えています。 我々には何ができますか? 【つかう責任】一般消費者として見た自分達の何気ない行動、その小さな行動が環境破壊にも、環境保全にもつながると考えています。その為には行政のルール作りも必要だし、作る側の配慮は欠かせませんが何より大切なのは個人個人の気持ちだと思います。その気持ちを維持させるためには行政の力や企業の力も必要です。更に売る側の責任も欠かせないと思います。つくる責任・つかう責任に売る責任を加えてSDGs12になると考えています。
4.8つのターゲットと3つの具体的な対策 SDGs12には詳細な目標として8つのターゲットとそれに加えて3つの具体的な対策があります。一例を紹介します。 12.2:2030年までに天然資源の持続可能な管理及び効率的な利用を達成する。 12.5:2030年までに、廃棄物の発生防止、削減、再生利用及び再利用により、廃棄物の発生を大幅に削減する。 12.b:雇用創出、地方の文化振興・産品販促につながる持続可能な観光業に対して持続可能な開発がもたらす影響を測定する手法を開発・導入する。 とても大きな目標を掲げています。物作りを工夫するだけでなく、そして廃棄物を低減するだけでもなく、そこに文化の継承や雇用創出なども同時に作り出そうと言うのがSDGs12の本来の目標となります。 未来に向けてと言っても2030年までは思っているほど時間がありません。全てのSDGsを目標に掲げる事も大事かも知れませんが、その中の一つや二つにこだわり、徹底的に進めるのが今の企業に求められているのかも知れません。169個のテーマを中途半端に進めるより、その企業のこだわり、その社長のこだわりを大切にして戴きたいと考えています。
5.出来ることから始める 具体的な取り組み事項をご紹介します。 反応射出成型と言うあまり聞きなれないかと思いますが幾つかの化学薬品を瞬時に混ぜながら金型に注入して色々な成型品を作るという生産手法です。ある企業様からの依頼で、4~5%の不良率の生産ラインの不良率が更に上昇傾向なので見て欲しいと言う内容でした。 まずは、データをきっちりと取ることから始めました。 そのデータを見ながら分析を進め、人の問題なのか?周辺機械含めて機械は?材料は?方法は?という4Mから確認をして、通常の反応射出成型の不良対策を続け約1年後には1%台まで低減できました。その企業様は更に半減できないかと依頼をしてきたので、切り口を変えて対策を進め、更に2年後には0.2~03%程度まで不良を低減する事に成功しました。もちろん現場の方々の協力は大きかったですが、データを集め分析して切り口を変える事で新たな改善策を見つけ出し、新たな対策にチャレンジし続けた結果だと思います。 工場にとってあきらめていた不良率低減にチャレンジする事もSDGs12の立派な活動です。反応射出成型という特殊分野では得意とする人も少なく、声を掛けられるケースが多いと感じています。日本の技術、物作り技術には不良に対する取り組みも含まれていると思いますので、更なる不良低減に取り組むことでSDGs12への取り組みをスタートしてはと思います。
参考文献:外務省 JAPAN SDGs Action Platform
2022年9月6日
著 者:佐藤 優(さとう まさる)
専門分野:反応射出成型全般、ポリオール・イソシアネートなどPUに関する設備・材料・不良低減等
出身企業:化学系企業
得意分野:生産技術、品質改善、標準化、見える化への取り組み
取り組み事項:リサイクル
趣味:釣り、睡眠(JAFA認定睡眠コンサルタント)
*コラムの内容は専門家個人の意見であり、IBLCとしての見解ではありません