専門家コラム

【023】イスラムとハラール認証について

江本 三男

イスラムとハラール認証について

近年、中東の国々でイスラムの武装勢力の活動が大いに話題になっているが、イスラム世界に特有な認証制度といえば、ハラール認証である。全世界のイスラム教徒の人口は、2020年には、世界人口の1/4を占めるといわれており、日本でもオリンピックに向けて年々イスラム教徒の観光客が増加している。そこで、ハラール認証を受けた、ホテル、レストラン、料理、加工食品等々の必要性が強調されている。筆者は、ここ数年からハラール監査の業務を担当しているのでその経験を記述する。

「ハラール」とはイスラムの聖典クルアーン(コーラン)のなかで唯一神が人に対して下した戒律(イスラム法)であり「合法である」という意味のことばである。その逆で「不法である」という意味は「ハラーム」という。このような規律は、食に関することだけでなく、生活にまつわる全てのことに当てはまる。例えば、食事の内容、食事の方法、身だしなみ、契約、金融、等がある。また、ハラール認証とは、生産地から消費者までの全行程についてハラール基準に基づき、全ての製造流通過程 (肥料、屠畜、動物愛護、衛生、加工倉庫、管理、輸送、社内ハラール化プラン等)を第三者機関であるハラール監査団体が、確認して「ハラール製品認証」することであり、イスラム教徒の消費者が安心して消費できるようにすることである。

ここで、ハラール認証取得のメリットとしては、国内のイスラム教徒の便宜に帰するのみならず、認証を受けた商品をイスラム教徒が多い国への輸出する場合に必要になってくる。特に、経済状況が良好であるアジアのマーケットへの製品輸入の際に求められるのは「その商品がハラールかどうか」である。そのため、日本から輸出したい商品が輸出先のハラール認証機関から認証を受けているか、或いは輸出先のハラール認証機関から認定を受けている日本国内ハラール認証機関の認証を受けている商品のどちらかであることが求められる。

筆者の経験であるが、某食品会社が日本国内だけのハラール認証 (所謂ローカルハラール)を受けていた商品をイスラム教の国へ輸出しようとしたが、輸出先から輸入拒否され、改めて相互認証されている筆者の所属する機関で認証をやり直したことがある。このようにハラール認証をどの機関で行うか留意が必要である。さらにハラール化プランの特徴的なこととして、原料や包装材料にハラーム(不法である)とされる物質とのコンタミがないことを確認する作業がある。例えば豚に由来する全ての原料とそれらのコンタミを避けなけれならない。また、酩酊する可能性のある量のアルコールの残存は、許されない。理由は、イスラム法に反するからである。

また、施設がハラール認証を取得する前提としては、その施設がHACCPや、ISO 9001、22000を取得していることが望ましい。すなわち、施設の環境が清潔で適切に管理されていることを確認した上で、ハラーム(不法である)とされる物に汚染されていないことを確認することになる。従って、監査においては5Sに相当する事項の指摘があったうえに、設備や服装にハラールの表示を要求し、ハラールの作業エリアを明確にすることがある。さらに、輸送方法についても、ハラールでないものと接触しないように混載することをさけたり、荷台にコンタミを避ける仕切りを設けたりすることが求められる。

今回、ハラールの基本的な情報と、筆者が経験した状況を記述したが、今後食品を扱われる方に一般情報としてご理解いただければ幸いです。

2017年1月31日

著者:江本 三男(えもと みつを)
出身企業:医薬品・食品の製造販売会社
略歴:医薬品・食品の会社で研究・開発・生産・販売を担当してきました。自分で「いちから」商品を開発して販売までを経験したことで、「ものづくり」の全体象を理解できます。現在は、品質マネジメントシステム、食品マネジメントシステム、ハラール認証の審査員、監査員や企業の顧問を数社と契約しております。同時に、日本食品技術株式会社(http://e-jft.com)の代表として契約会社の技術相談をしています。
資格等:技術士(農業部門・食品製造)、公害防止管理者、ワインアドバイザー(日本ソムリエ協会)
その他:Facebookは”江本三男”で登録しています。



*コラムの内容は専門家個人の意見であり、IBLCとしての見解ではありません

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