樹脂素材からなる次世代リチウム電池「全樹脂電池」を製造する電池メーカーAPB株式会社は、サウジアラビア国営石油会社サウジアラムコと、同電池の共同開発に向けて連携することで基本合意した。これにより、樹脂素材の更なる技術革新や大量生産体制を確立し、全樹脂電池の世界展開を進める。
【本技術の概要】
APB の全樹脂電池は、大面積バイポーラ構造(注1)という集電体を用い、電池部材に使われていた金属部品をすべて樹脂に置き換えた電池である。発火リスクが少なく安全で、従来製品に比べて小型、軽量で高エネルギー密度を実現した。また、素材の一部をリサイクルできるという環境に優しい電池でもある。従来のリチウムイオン電池の製造工程を大幅に簡略化・高速化できる可能性をもつことから、製造コストの削減が見込めると期待されている。
【本技術の詳細】
(1) 集電体を樹脂に変更
従来型リチウムイオン電池では、短絡発生時に抵抗の低い金属集電体を通して大電流が流れ、急激に電池が発熱する懸念があるが、全樹脂電池は抵抗の高い樹脂集電体を使用しているため、短絡発生時も大電流が流れることがない。
(2) 3次元電極の採用
電極にはゲルポリマーにより多機能ポリマー界面を有する活物質微粒子を集合することで、電子伝導性とイオン伝導性のネットワークを構築し、集電体に対して垂直に電流が流れる構造となっている。そのため、従来型リチウムイオン電池の製造プロセスで必要であった電極乾燥工程や金属集電体に起因する金属加工プロセスが不要となり、部品点数や製造プロセスを大幅に削減でき、コストの低減が期待できる。また、各種の機能を有する有機物材料を活物質表面に設置することで、必要とされる様々な機能を発現するインターフェースを形成することが可能となっている。
【本技術の特徴】
リチウムイオン電池は、短絡(ショート)により発火する危険性があるため高度な安全対策が必要なこと、コバルトなどの希少金属(レアアース)を用いることから、製造コストが高く、製造工程で大量のCO2を排出することなどが大きな課題となっている。これらの課題が「全樹脂電池」で解決するされることが期待されている。
その特徴は次のとおりである。
① 異常時の高い信頼性:全樹脂電池内にはバルクの金属材料が使用されていないため、短絡をしても内部に大電流が流れることがなく、急激な温度上昇は発生しない。
② 高エネルギー密度:大面積セルを隙間無くバイポーラ積層化することにより、高い体積エネルギー密度を実現した。
③ 独自の生産プロセス:セル構造がシンプルなため、従来型に比べ部品点数や製造プロセスを大幅に削減でき、コストの低減が期待できる。
④ 用途に応じた自由な形状設計:電池の構成成分が樹脂であるため、用途に合わせて自由に形状をデザインでき、システムトータルとして最適な対応が可能である。
【今後の予定】
サウジアラムコは、再生可能エネルギーを普及させる上で鍵となる次世代型の蓄電池として、“究極の電池”として評価の高いAPBの「全樹脂電池」の技術に注目し、共同開発に向けた連携協定を結ぶことを決めた。APBとしては、福井県の工場内に高速製造ラインのパイロット建設を行なっており、2026年度からの大規模量産化を進めるだけでなく、サウジアラムコと共に、さらに性能を高めた「次世代型の全樹脂電池」の共同開発の検討も進めていく予定である。
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