機械特性に優れた高周波帯域向け低誘電材料として、多孔質ポリイミド材料を開発した。孔径数10~数100nmの網状構造の多孔質ポリイミドエアロゲルで、従来のポリイミド多孔質体・発泡体とは異なり、独立気泡の無い新しい多孔質材料で、低損失材料だけではなく、耐熱性の高い断熱材など幅広い用途への展開が期待される。
【本技術の概要】
スマートフォンなどによる大量のデーターを高速で通信する5Gサービスが進む中、フレキシブルプリントケーブル(FPC)向けに高周波帯域で、比誘電率の小さい材料の需要が高まっている。それらの基板樹脂としては、フッ素樹脂(PTFE)、ポリフェニレンエーテル樹脂(PPE)、炭化水素系樹脂材などが注目されているが、耐熱性、銅箔との密着性、寸法安定性などハードルの高い課題を抱えているものが多い。
KRIスマートマテリアル研究センターの研究グループは、多孔質材料で、柔軟性、可撓性、成型加工性に優れ、実績のある高耐熱性樹脂を用いた基板材料の開発を進めている。具体的には、高耐熱なポリイミド中に数10~数100nmサイズの孔径からなる網状組織を形成することで、低誘電化を図っており、その構造故に柔軟性も有する(ポリイミドエアロゲル)。従来のポリイミド多孔質体・発泡体とは異なり、独立気泡の無い新しいポリイミド多孔質材料で、比誘電率1.1~2.0、誘電正接(tanδ)0.01~0.015の低損失材料を得た。また空隙率が大きいことから、断熱性能も高く、30mW/(m・K)程度の小さな熱伝導率を示す材料である。低誘電率材料・断熱材料としての応用が期待できる。
【本技術の詳細】
エアロゲルとは、一般的に超臨界乾燥法を用いて得られた低密度構造体(乾燥ゲル)のことで、エアロゲルに対し、蒸発乾燥過程によるものをキセロゲル、凍結乾燥のものをクライオゲルといわれている。同社が開発したポリイミド多孔質材料は、凍結乾燥法(フリーズドライ)と呼ばれる方法で、水や溶媒を凍結させ、真空あるいは減圧下で昇華により乾燥させる作製法で得られたものである。 ポリイミド多孔質構造は、見かけ密度が低いため軽いことや、低誘電率、熱伝導率など優れた特性を持つが、耐熱性、銅箔との密着性、寸法安定性など機械的特性を向上する必要がある。同社では、作製工程での条件検討により、微細構造中にスキン層を形成することで柔軟性・強度の向上とともに、気体・液体の遮断性の向上を実現した(図)。
代表的な機械特性である応力・ひずみ曲線を図に示した。可撓性がありながら、引張弾性率30MPaを達成した。また、超臨界乾燥法、凍結乾燥法以外に、今のところ限られた条件であるが、常圧乾燥法での作製も可能となっており、特性の改善と低コスト化も期待される。
【今後の予定と課題】
架橋ポリイミドからなるエアロゲルの多孔質シートは、低誘電率材や断熱材用途への展開が期待されている。エアロゲルは、低密度、低誘電性、断熱性に優れた材料であるものの、シリカ系エアロゲルは柔軟性に乏しく、機械特性の点から応用範囲が限られている。その対策として、同社は、柔軟性、可撓性、成型加工性に優れた多孔質材料、エアロゲルの開発を目的として、有機ポリマーを基材とする多孔質体やエアロゲルに関する開発プロジェクトを推進している。従来のポリイミド多孔質体・発泡体とは異なり、独立気泡の無い新しいポリイミド多孔質材料が得られることが期待される。このような複雑に入り組んだ貫通孔を有する内部構造であるため、消音機能による吸音材や防音材の開発、耐薬品性の濾材への応用、内表面積が大きい構造を利用して電極材料としての展開も考えられる。
① 低温~400℃程度の中温域で15mW/m・Kの性能を有する断熱材料の開発
② 透明性エアロゲル、透明断熱材の研究開発(窓貼付型断熱シート)
③ 比誘電率1.1~2.0の低誘電率材料の開発
④ エアロゲルの焼成によるカーボンエアロゲル(燃料電池電極触媒担体、電気二重層キャパシタ)