NICT未来研究所グループは、8Wを超えるワット級の深紫外LEDハンディ照射機の開発に成功した。本機は、世界初となる極めて高いウイルス不活性化率を実証した。
【本技術の概要】
国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT(エヌアイシーティー)、理事長: 徳田英幸)未来ICT研究所の井上振一郎室長らの研究グループは、8Wを超えるワット級の深紫外LEDハンディ照射機の開発に成功した。発光波長265nm帯の高強度深紫外LEDをマルチチップ実装しバッテリーで駆動させることで、どこにでも持ち運べる小型ハンディ機を実現した。今回開発した照射機は、豚コロナウイルス(PEDV)に照射した結果、広範囲(直径100 cm内)のウイルスを30秒以下の短い照射時間で99.99 %以上不活性化した。本成果はウイルスに対し、極めて高いウイルス不活性化率を達成した世界初の実証例となった。病院や公共・商業施設、交通機関などでの実用性・汎用性の高い殺菌応用が期待され、これまで液体消毒薬剤の散布が難しかった場所の殺菌・消毒など、新型コロナウイルスの感染拡大防止や公衆衛生の向上に貢献する技術として注目される。
【本技術の詳細】
今回、開発した深紫外LEDハンディ照射期の特性を図3.に示した。グラフは縦軸に光出力を、横軸は5×4 LEDアレイのLED 1チップに流れる電流値を示した。この図から、ワット級(8W超)の光出力を室温・連続動作下において達成し、発光ピーク波長は最も殺菌性能の高い265nm帯を示していることがわかった。
豚コロナウイルス(PEDV)液を滴下した複数のシャーレを直径30cm及び直径100cmの範囲内に均等に配置し、深紫外LEDハンディ照射機から深紫外光(光出力5W)を照射した直後に回収し、ウイルス力価(感染性を有するウイルス量)を評価した(図5参照)。図5の青丸は直径30cmの範囲内に照射した場合、赤丸は直径100cmの範囲内に照射した場合の深紫外光の各照射時間に対するウイルス生存率を示した。
【本技術の技術開発・事業展開】
今回開発したワット級の深紫外LED小型ハンディ照射機は、病室のベッドや医療器具、学校や介護施設、オフィスのデスクやドアノブ、トイレ、飲食店のテーブルやキッチン、鉄道車両や航空機内の座席や手すりなど、人が出入りし接触するあらゆる表面・空間を広い面積にわたって簡便・迅速に殺菌することが可能であり、幅広い用途における今後の活用、応用展開が期待される。
今回開発したワット級深紫外LED小型ハンディ照射機に搭載した深紫外LEDは、深紫外LEDの光取出し特性と放熱特性を同時に向上させる独自のナノ光・ナノフィン構造からなるチップを用いた。本構造は、ナノインプリント技術を用いてチップ全面に形成し、光出力飽和現象を大幅に抑制し、発光波長265nm、シングルチップ・室温・連続駆動において世界最高出力となる500mW超を達成している。