NEDO 若手研究グラント平成23年度採択テーマから産学連携のための研究紹介

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全光シフトレジスタ型メモリの集積構造モジュールの実現

電子メモリを用いた現行の通信ノードの処理能力を大きく向上させ、併せて低消費電力の全光型メモリモジュールを開発します。幹線系光通信で使用可能な面発光半導体レーザ(VCSEL)を、その発振偏光を双安定に切り替えることにより、高速・低エネルギー動作が可能な全光型メモリとして用いることができます。さらに2次元アレー化が可能であるという特徴を生かし、空間光学系によりVCSELアレーと微小光学素子を集積化したバッファメモリを実現していきます。

研究機関・所属 奈良先端科学技術大学院大学 物質創成科学研究科
氏名・職名 片山 健夫 助教
研究テーマ名 光通信波長帯面発光半導体レーザの偏光双安定特性を用いる全光シフトレジスタ型メモリの集積構造モジュールの実現
応用想定分野 光素子のみで構成したシフトレジスタ、全光型ルータ、全光中継デバイスなど。
技術紹介

 大量の情報処理や記録をすべて光信号のままで高速に記録・読出しできる「全光型」の記録素子を実現するため、双安定VCSELを研究開発しました。この双安定VCSELは、基板に対して垂直に光を放射する一種の半導体レーザです。光信号を、直接にVCSELの出射面に入力することにより、縦か横かどちらかの方向に振動する偏光を選択的に放射し、情報を一時的に蓄えるメモリであるフリップフロップと等価な動作を行うことができます。(図1)

図1 VCSELの全光型偏光双安定動作

技術の特徴

 開発した光メモリとして用いるVCSELは大きな出力パワーに対して、小さい入力で制御できるため、光メモリの出力を連結した別の光メモリの入力により、一種のシフトレジスタとして、信号を移動させる方式を実現することが出来ます。さらにVCSELは制御入力により発振偏光を変えるだけであるので、きわめて高速で動作します。

従来技術との比較

 従来は光ファイバーを用いた遅延線によるメモリデバイス等が発表されていましたが、本技術は制御光により自由に光メモリ(RAM)をコントロール可能です。キーとなる世界最少の駆動電流で動作する偏光双安定VCSEL は、大きな出力パワーに対して、小さい光入力で制御できるため、光増幅器などが不要となります。さらに受光、メモリ、発光の3つの機能を1つの素子で実現しています。そのため非常に少ない構成素子により、全光型メモリモジュールが実現できます。これにより、世界で初めて4ビットの全光RAMを試作し動作させることができました。

表1 比較表

特許出願状況

登録特許 第4660731号
出願中 特開2008-262122

研究者からのメッセージ

 光バッファメモリは、全光型ルータの最も実現困難な要素であり、技術戦略マップにも重要課題として挙げられています。アレー構造のVCSELを用い、本研究開発を3次元モジュールヘ拡張することで、実用性の高い光バッファメモリの作成が可能となります。

参考:

奈良先端科学技術大学院大学 物質創成科学研究科 超高速フォトニクス研究室
http://mswebs.naist.jp/LABs/kawaguchi/index.html

発表論文:

1.
Takeo Katayama, Yuuki Sato, Takashi Mori, and Hitoshi Kawaguchi, "Polarization Bistable Characteristics of 1.55 μm Vertical-Cavity Surface-Emitting Lasers," Jpn. J. Appl. Phys., 46, p. L1231, 2007.
2.
Takeo Katayama, Tomohiro Ooi, and Hitoshi Kawaguchi, "Experimental Demonstration of Multi-Bit Optical Buffer Memory Using 1.55-μm Polarization Bistable Vertical-Cavity Surface-Emitting Lasers," IEEE J. Quantum Electron.,45, p. 1495, 2009.
3.
Takeo Katayama, Akio Yanai, Kouhei Yukawa, Satoshi Hattori, Kazuhiro Ikeda, Shinji Koh, and Hitoshi Kawaguchi、"All-Optical Flip-Flop Operation at 1-mA Bias Current in Polarization Bistable Vertical-Cavity Surface-Emitting Lasers With an Oxide Confinement Structure," IEEE Photon. Technol. Lett., 23, p. 1811, 2011
4.
片山健夫、河口仁司、「酸化狭窄偏光双安定VCSELを用いた全光フリップ・フロッップのサブmA動作」、電子情報通信学会2011年ソサイエティ大会講演論文集、C-4-2、p. 217、札幌、2011年9月13日