NEDO 若手研究グラント平成23年度採択テーマから産学連携のための研究紹介

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超高効率1次元量子ナノワイヤー熱電変換素子の開発

熱電変換素子の飛躍的なエネルギー変換効率の向上を目指し、直径がナノスケール、長さがミリスケールの1次元量子ナノワイヤー熱電変換素子を開発します。量子効果と表面ポテンシャル効果を効果的に取り入れ、エネルギー変換効率の向上とその評価を進めています。この研究をさらに発展させ、火力発電所におけるLNG冷熱回収、電気自動車の省エネ型分散空調等多くの分野における省エネ化、高機能化を実現します。

研究機関・所属 埼玉大学 大学院理工学研究科 環境制御システム工学系専攻
氏名・職名 長谷川 靖洋 准教授
研究テーマ名 超高効率1次元量子ナノワイヤー熱電変換素子の開発
応用想定分野 火力発電所におけるLNG冷熱回収、電気自動車の省エネ型分散空調等
技術紹介

 熱エネルギー(温度差)から直接電気エネルギーを回収する(発電として利用)、また電流を流すことによって温度差を得る(エアコンとして利用)ことができる熱電変換素子は、従来エネルギー変換効率が低いことが問題視されていました。それを材料の形状をナノワイヤー化し量子効果と表面ポテンシャル効果を取り入れることによって、飛躍的に高いエネルギー変換効率を持つ熱電変換素子の開発を行っています。
 量子効果を取り入れ且つ初期段階から実用化を想定し、ワイヤー直径がナノスケール、長さがミリスケールを同時に実現できる1次元量子ナノワイヤー熱電変換素子(下図参照)を作製し、そのエネルギー変換効率の評価を進めています。1mm以上の長さを維持しつつ、ワイヤー直径を100nm以下、将来的には20nmを目指した素子の研究開発を進め、ナノテクノロジーを活かした性能評価を同時に行い、現状の数%から数十%へと桁違いの高効率を実現する、超高効率熱電変換素子の開発を進めています。

技術の特徴
(1)
直径が100nm以下で長さが1mm以上という高アスペクト比のナノワイヤーを作成する技術を世界で初めて開発したこと。
(2)
この形状で、ゼーベック係数,抵抗率など、熱電変換素子評価の物性値の温度依存性を世界で初めて同時に測定し、その挙動についてモデル化を構築したこと。
(3)
直径80nmの形状をもつナノワイヤー熱電変換素子では、ゼーベック係数が大きく改善する可能性を実験的に確認していること。

現在の課題としては、直径100nm以下の単一単結晶一次元ナノワイヤー熱電変換素子を作製し、その熱電変換性能を客観的に明らかにする点にある。

従来技術との比較

世界中でナノワイヤー熱電変換素子の研究が行われているものの、ゼーベック係数・抵抗率などの熱電変換素子の物性測定を総合的に行っているのは本研究のみであり、研究を積み重ねつつ、ワイヤー長さ1mm以上を保ちつつ、ワイヤー直径を100nm以下に達しています。

特許出願状況
1)
特許公開2009-043783 積層型熱電変換素子及びその製造方法
2)
特許公開2007-305664 熱電素子およびその製造方法
3)
特許公開2006-196727 熱電変換素子とその製造方法
4)
特許公開2004-045283 温度測定装置
研究者からのメッセージ

 エネルギー供給・省エネルギー化を考える上で、熱電変換素子の研究は大きな期待を集めていると同時に、その画期的なエネルギー変換効率の向上が求められています。本研究では、今まで困難とされた直径100nm以下,長さ1mm以上という実用化を想定した形状をもち、量子効果を取り入れるため、今までにないナノワイヤー製造手法,ナノ加工などを用いて、困難を一つ一つ克服していっています。今まさに、従来の三次元形状とは全く異なる熱電変換素子の挙動を掴み始めたところです。これが一次元形状による量子効果・表面ポテンシャルの影響かを確認するためには客観的で且つ冷静な研究が必要となっていきます。今後の熱電変換素子の可能性、今後の適用範囲を十分に掴む意味でも、多くの企業の方に参画して頂けると幸いです。

参考:

研究室ホームページ
http://www.env.gse.saitama-u.ac.jp/hasegawa/index-j.html

発表論文:

1.
M. Murata et al, "Mean free path limitation of thermoelectric properties on bismuth nano-wire", J. Appl. Phys., Vol.105,pp.113706 1-9 (2009), Selected for the June 15, 2009 issue of Virtual Journal of Nanoscale Science & Technology
2.
M. Murata et al, "Thermoelectric properties of bismuth nanowires in a quartz template", Appl. Phys. Lett., Vol.94, 192104 (2009), Selected for the May 25, 2009 issue of Virtual Journal of Nanoscale Science & Technology
3.
Y. Hasegawa et al, "Reducing thermal conductivity of thermoelectric materials by using a narrow wire geometry", J. Appl. Phys., Vol. 106,pp.063703 1-7 (2009)