NEDO 若手研究グラント平成23年度採択テーマから産学連携のための研究紹介

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新規代謝デザインにもとづく次世代バイオ燃料(イソブタノール)生産酵母の開発

本研究ではセルロース系バイオマスからイソブタノールを生産するための酵母の開発を行います。最終的には、既存の酵母を用いたバイオエタノール生産プロセスを活用して、より付加価値の高いイソブタノール生産する技術を開発することを目標としています。

研究機関・所属 大阪大学 大学院情報科学研究科 バイオ情報工学専攻
氏名・職名 松田 史生 准教授
研究テーマ名 新規代謝デザインにもとづく次世代バイオ燃料(イソブタノール)生産酵母の開発
応用想定分野 バイオ化学物質の生産やバイオ工学分野
技術概要

 近年、微生物のゲノムデータや文献情報から代謝経路に関する情報を集約した、詳細な代謝モデルが構築されています。この代謝モデルと、フラックスバランス解析(FBA)と呼ばれる解析法を組み合わせると、計算機中で微生物の代謝機能を再現することができます。この代謝シミュレーション技術を用いると、微生物の代謝機能を改変し、有用物質の生産性を向上させるための設計図を描くことができます。たとえば、目的とする有用物質へ流れる代謝フラックスを向上させるには、酵素遺伝子を破壊し、不要な代謝経路を遮断する必要があります。代謝シミュレーション技術を用いると、個々の遺伝子の破壊が有用物質の生産性に与える影響を予測できるため、代謝経路の改良を合理的に進めることが可能になります。

 一般的には、酵母はグルコースを代謝して特異的にエタノールを作り出す能力を有し、他の物質を作り出すことは殆ど期待できませんが、発酵時のさまざまなストレスに強い特性を持ち、詳細な代謝回路等が解明されているなど研究ツールとして充実していることから、この代謝回路に以下の図に示すような方法にてイソブタノールを産生する新たな代謝回路を組み込むことが可能となりました。

 酵母のグルコースを出発点とし、ピルビン酸を経由する代謝回路に、エタノールを産生する回路を遮断し、遺伝子導入技術を使って、イソブタノールを産生する代謝回路を組み込んだ時に生ずる問題点を解明するためにシミュレーションを行います。
 このシミュレーションに基づいた新しい代謝回路を遺伝子導入で作成し、シミュレーション通りの代謝が行われているか検証・解析を行うことができます。

 この検証・解析結果から酵母にイソブタノールを産生させる代謝回路を遺伝子導入した結果、143mg/ℓのイソブタノールを作ることに成功し、最終的には10g/ℓの収率を目標に研究を進行させています。

技術の特徴

 既存の代謝回路に代わる新規の代謝回路を構築するために、理論回路の構築のシミュレーション、遺伝子操作および新しく組み込まれた代謝回路の検証・解析と言う3つの手法を同時に使いこなして新しい酵母等を作り出す技術である。

従来技術との比較
特許出願状況

出願中

研究者からのメッセージ

 セルロース系バイオマスから次世代バイオ燃料であるイソブタノールを生産する酵母の開発を目指します。酵母の代謝系を大規模に改変するために、代謝デザイン技術、代謝改変技術、代謝診断技術などの革新的手法を駆使します。これにより、酵母のイソブタノール生合成能を大幅に向上させることを目指します。イソブタノールはバイオエタノールに続く次世代バイオ燃料のみならず、多様な化成品の原料としても利用可能です。また、代謝デザイン技術、代謝改変技術、代謝診断技術などの手法は今後の酵母を用いた代謝改変研究へと応用が可能です。これらの実用化により多方面にわたるグリーンイノベーションを創出したいと考えています。

発表論文:

1.
Fumio Matsuda, Chikara Furusawa, Takashi Kondo, Jun Ishii, Hiroshi Shimizu and Akihiko Kondo. Engineering strategy of yeast metabolism for higher alcohol production. Microbial Cell Factories (2011) 10:70
2.
Hiroko Kato, Yoshihiro Izumi, Tomohisa Hasunuma, Fumio Matsuda, and Akihiko Kondo (2012) Widely targeted metabolic profiling analysis of yeast central metabolites. J. Biosci. Bioeng. 113(5), 665-673
3.
Takashi Kondo, Hiroyuki Tezuka, Jun Ishi, Fumio Matsuda, Chiaki Ogino, and Akihiko Kondo (2012) Genetic engineering to enhance the Ehrlich pathway and alter carbon flux for increased isobutanol production from glucose by Saccharomyhces cerevisiae. J. Biotechnol. 159(1-2), 32-37
4.
Hiroyuki Suga, Fumio Matsuda, Tomohisa Hasunuma, Jun Ishii, and Akihiko Kondo (2012) Implementation of a transhydrogenase-like shunt to counter redox imbalance during xylose fermentation in Saccharomyces cerevisiae. Appl. Microbiol. Biotechnol. In press.
5.
Fumio Matsuda, Takashi Kondo, Kengo Ida, Hironori Tezuka, Jun Ishii, and Akihiko Kondo (2012) Construction of an artificial pathway for isobutanol biosynthesis in the cytosol of Saccharomyces cerevisiae. Biosci. Biotech. Biochem. In press.