NEDO 若手研究グラント平成23年度採択テーマから産学連携のための研究紹介

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卑金属ナノクラスター触媒を用いたファインケミカル合成技術及び 非白金系燃料電池の開発

アルコールを原料とする一段階でのファインケミカル合成、及びアルコールを燃料とするアルカリ形燃料電池用電極反応を効率よく促進することができる、低コストなNi系触媒を開発しました。これまでこれらの反応用には白金族系触媒が使われることが多かったのですが、Ni系触媒のナノクラスター化、典型元素の表面ドープ、担体酸塩基点の協働効果等を駆使することによって、これらと同等、もしくはより高性能な触媒を開発できました。

研究機関・所属 北海道大学 触媒化学研究センター
氏名・職名 清水 研一 准教授
研究テーマ名 卑金属ナノクラスター触媒を用いたファインケミカル合成技術及び非白金系燃料電池の開発
応用想定分野 基礎化学品、界面活性剤、スキンケア原料、アルカリ膜型アルコール燃料電池
技術紹介

 Ni及びCoナノ粒子(粒子径5nm以下)を酸塩基二元機能担体に担持し、金属表面に微量の酸素原子を残存させた触媒が、(1)酸化剤フリー条件でのアルコール酸化、(2)アルコールのカップリング反応、(3)アルコールとアミンのクロスカップリング反応に対し、白金族錯体触媒を上回る触媒性能を示すことを見出しました。カップリング反応(2)、(3)はどちらもアルコール酸化(1)を開始反応とするワンポット合成反応です。バイオリファイナリーの観点から重要な、エタノールを用いた反応に対しても本触媒系は、収率90%以上の高性能を示しました。そこでアルコール燃料電池用のアノードとしての性能を検討したところ、優れた性能を示すことが判りました。

 燃料電池用アノード開発と上記ファインケミカル触媒開発は、アルコール酸化の基盤技術として共通点があります。ここではアルコール脱水素触媒の開発・改良過程で得られる触媒設計指針を用い、アルカリ膜型アルコール燃料電池用のアノード開発にも応用展開が可能なことが示されました。

技術の特徴

 ファインケミカル製造の高効率化には、安価かつプロセス化が容易な固体触媒を用いたワンポット合成やクロスカップリング反応の開発が必須となります。学術的には白金族錯体を用いた検討が行われてきましたが、高価で分離・再利用が困難であるため、実用化は困難でした。本研究では、白金系触媒に比べ3桁以上安価なNi,Co系固体触媒を用いたファインケミカル合成に成功し、ファインケミカル合成における、(A)ワンポット化、(B)ハロゲンフリー化、(C)白金族フリー化、(D)固体触媒化、(E)非化石由来原料利用 を達成しました。従来技術で、A~Eの数項目を満たす"環境調和型"合成法の報告は多いですが、A~Eの条件を全て満たす例は極めて少ないものです。研究終了時に、(1)~(3)以外の種々の類似反応に対してこれら条件を満たす合成法が確立すれば、従来の生産技術(多くは多段階、非触媒法)に比べE-ファクターを1桁以上低減したファインケミカル製造技術が確立します。一方、ファインケミカル用Ni触媒(試作品・設計コンセプト)を燃料電池アノード設計に用いることで、安価な卑金属系アノード材料が効率的に開発されます。

従来技術との比較

 反応(1)~(3)に対して、卑金属触媒は当グループの従来技術(担時Ag触媒)を上回る性能を示しました。最近、白金族錯体(競合技術)の4倍のターンオーバー数を示す安価で再利用可能なNi触媒の開発にも成功しています。

 従来の卑金属(Ni, Cu等)固体触媒は低価格で再利用も可能ですが、その産業利用は石油精製など限定的であり、ファインケミカル合成への適用例も水素化反応に限られていました。その主な理由は、卑金属触媒研究において触媒の精密設計の概念が欠如していたことによります。本研究では、ナノスケールで構造制御されたNi,Co系固体触媒が、高難度なファインケミカル合成に有効な固体触媒として利用可能であることを初めて見いだしたものです。

ファインケミカル合成における類似技術との比較
アルコールとアミンのクロスカップリングによる3級アミン合成での比較

特許出願状況

 これまでに、本人が発明者となって企業が出願した特許が、2件あります。触媒は、企業で使われて生きてくるので、関心を持つ企業があれば、企業と協力して特許出願を進めていきます。

研究者からのメッセージ

 化学産業の中でもファインケミカル分野は高付加価値が望める反面、E-ファクターが極めて高いことから、本分野の技術革新はCO2削減(省資源化)と国内化学産業の競争力強化に直結します。従来、有害かつ再利用不可能な補助剤(ハロゲンなど)や白金族触媒を用いた多段階法で製造してきたファインケミカルを再利用可能かつ安価な卑金属固体触媒を用いた一段階・非ハロゲン法で製造することが技術革新の鍵と考えますが、先行例は極めて少ないものです。本技術が、ファインケミカル製造分野における技術革新の鍵となると確信しております。

発表論文:

1.
Direct C-C Cross-coupling Reaction from Secondary and Primary Alcohols Catalyzed by γ-Alumina Supported Silver Subnano-Cluster, Ken-ichi Shimizu,* Ryosuke Sato, and Atsushi Satsuma, Angew. Chem. Int. Ed., 48, 3982-3986 (2009).
2.
γ-Alumina Supported Silver Cluster for N-Benzylation of Anilines with Alcohols, Ken-ichi Shimizu,* Masanari Nishimura, Atsushi Satsuma, ChemCatChem, 1, 497-503 (2009).
3.
Direct Dehydrogenative Amide Synthesis from Alcohols and Amines Catalyzed by γ-Alumina Supported Silver Cluster, Ken-ichi Shimizu*, Keiichiro Ohshima, Atsushi Satsuma, Chem. Eur. J. 15 9977-9980 (2009).

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