NEDO 若手研究グラント平成23年度採択テーマから産学連携のための研究紹介

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革新的マイクロ湿式紡糸プロセスによる高機能ナノファイバーの創製

 ナノファイバーは従来、電界スピニング法(ES法)、或いは海島型ファイバー溶融紡糸法等が知られ、一部工業化されているが、いずれも取扱い、収率、品質機能性等に問題が多い。本研究は、世界でも前例のない湿式プロセスでのナノファイバーの調製法を開発したものです。完成すればナノファイバー製造技術のみならず高機能付与など画期的なものになると考えられます。

研究機関・所属 岡山大学大学院 環境工学研究科
氏名・職名 小野 努 准教授
研究テーマ名 革新的マイクロ湿式紡糸プロセスによる高機能ナノファイバーの創製
応用想定分野 高機能フィルター、細胞培養担体、二次電池材料、薬物徐放担体、再生医療用担体、ドラッグデリバリーシステム、カーボンナノファイバー(高強度繊維)など
技術紹介

 研究例では下図で
 A液として高分子量PEG(ポリエチレングリコール)とPLA(ポリ乳酸)のブロック共重合体(PEG-PLA)を有機溶媒(この場合は酢酸エチル)に溶解したもの
 B液として界面活性剤の役目をする水溶性PEG-PLA含む水溶液
 を二重円管ノズルから両液をジェット流の形成が可能となる溶液条件で送液する事により、ノズルから噴出したジェット流からA液中の酢酸エチル溶媒がB液中へ迅速に溶媒拡散し、A液中で過飽和に達した高分子(この場合は高分子PEG-PLA)が析出し、繊維状のナノファイバーを得るものです。両液の流速、高分子の濃度を変える事により大きさの異なるナノファイバーを得る事ができます。(例えば177~489nm)

技術の特徴

 本研究のバックグランドとして、従来、当研究室ではマイクロ流路を用いた単分散液滴生成(乳化)、単分散微粒子調整(コロイド)の研究がありそれらの技術の結果として、有機溶媒に溶解したPEG-PLAブロック共重合体から溶媒拡散によるナノPEG-PLA粒子調製技術がありました。本研究ではナノ粒子ではなく、液体が伸びた液糸状態で溶媒拡散を行うことでナノスケールの極細繊維が得られるとの発想で研究がすすめられました。
特徴としては、

(1)
有機溶媒に溶解した高分子を安定的に液糸状態保つための相関式の導入(JET流と液滴調整の関係式)
(2)
JET流を安定的に保つ為の界面安定化技術の導入(安定的に層流を保つ為のJet-To-Fiber技術)

などが基本理論技術としてあげられます。但し、必ずしも界面活性剤は必要でない。
工業的には従来法に比べ

(3)
常温常圧で操作が可能(溶融の為の加熱や減圧操作が原則不要)
(4)
低動力(送液ポンプの動力のみ)
(5)
量産化が容易(従来の紡糸技術と同様ノズル数を増やす事で量産化が可能)
(6)
表面特性を持った機能性ナノファイバーが可能(高分子の分子設計により表面配向が可能)

等が挙げられます。
更には今後の展開としては,高分子の種類は勿論、異形断面糸、高いL/D(繊維長/径)糸、不均一表面特性糸、複合繊維構造糸など新規性の高いナノファイバーの合成が考えられます。

従来技術との比較

*最近 ノースカロライナ州立大学でベンチャー企業"Xanofi"が設立され、遠心力で液滴を延伸させてナノファイバーを湿式で調整する技術が発表されました

特許出願状況

特願2010-192223

研究者からのメッセージ

 国内のみならず欧米中心に開発の進むナノファイバーであるが、現在はほとんどがエレクトロスピニング(電界紡糸)法によるものであり、本研究では製造法のブレークスルーによって新たな機能性ナノファイバーの調製を可能にした。元来、日本が得意とする繊維製造技術の基礎を支えてきた微細金属加工技術による紡糸ノズル構造を利用してナノファイバーの湿式紡糸を可能にしていて国際競争力も備えた技術だといえる。しかしながら、大学での開発スピードには限界があり、是非とも新規機能性ナノファイバーを創造したい川下企業の協力を得て、高い技術力でファイバー分野における大きなブレークスルーをもたらしたいと願っている。

参考:

"Xanofi"
http://www.xanofi.com/tech.html

発表論文:

1.
コンバーテツク;2011年9月号72-75 「湿式プロセスによりナノファイバーの連続調製」
2.
Mater.Lett.,64,969-971(2010) 「PEG-PLA nanoparticles prepared by emulsion solvent diffusion using oil-soluble and water-soluble PEG-PLA」

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